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大阪地方裁判所 平成元年(レ)54号 判決 1990年1月19日

主文

一  第一審原告の本件控訴のうち主位的請求に関する部分を棄却する。

二  第一審原告の主位的請求を棄却する。

三  第一審原告の本件控訴のうち予備的請求に関する部分につき原判決を次のとおり変更する。

1  第一審被告は、第一審原告に対し、金三一万四六一八円及びこれに対する昭和六二年九月九日から支払済みに至るまで年三六パーセントの割合による金員を支払え。

2  第一審原告のその余の予備的請求を棄却する。

四  第一審被告の本件控訴を棄却する。

五  訴訟費用は第一、二審を通じてこれを三分し、その一を第一審原告の負担とし、その余を第一審被告の負担とする。

六  この判決は、主文第三項の1に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  第一審原告

1  原判決を次のとおり変更する。

2  第一審被告は、第一審原告に対し、金四九万九五〇〇円及びこれに対する昭和六二年九月九日から支払済みに至るまで年三六パーセントの割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。

4  第2項について仮執行宣言

二  第一審被告

1  原判決中第一審被告敗訴の部分を取消す。

2  第一審原告の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1(一)  金五〇万円の消費貸借契約の成立(主位的請求の請求原因事実)

第一審原告は、昭和六二年五月一三日、第一審被告に対し、次の約定で、金五〇万円を貸し渡した。

(1) 利息及び遅延損害金は日歩一五銭(年五四・七五パーセント)とする。

(2) 弁済方法については、元金は同年五月から昭和六三年二月まで一〇回に分割して毎月末日限り金五万円ずつ支払い、利息は右元金の支払と同時に経過分を元金に付加して支払う。

(3) 第一審被告は、右分割金又は利息の支払を一回でも怠ったときは、当然に期限の利益を失い、直ちに元利金残額及び残元金に対する遅延損害金を支払う。

なお、第一審被告は、後記二1のように、右契約はいわゆる借換契約であると主張するが、第一審原告は、第一審被告に対し、右契約に際して、現実に現金五〇万円を貸し渡したものである。右契約前に、第一審被告が第一審原告に対して残債務(昭和六一年一〇月七日に締結された消費貸借契約に基づく残金三六万〇九二五円の返還債務)を負っていたことは事実であるが、第一審原告は、昭和六二年五月一三日、右残債務とは別に、第一審被告に現実に金五〇万円を貸し渡したのであり、その時点では右残債務と同日に締結された金五〇万円の返還債務とが併存していた。そして、第一審原告は、同日その後、第一審被告から昭和六一年一〇月七日に締結された消費貸借契約に基づく右残金三六万〇九二五円の支払を受けた。

第一審原告は、従前の債務のある顧客に対して更に金銭を貸付けるときは、当日の貸付金全額を現金で一旦顧客に交付したうえで、その後従前の債務につき返済を受けることによって決済している。これは、借入金と支払額とを明確にして、借主の注意を喚起して借主を保護し、ひいては、貸主・借主の円滑な貸借関係を確保するためである。

(二)  消費貸借と準消費貸借との混合契約による第一審被告の金五〇万円の返還債務の発生(予備的請求の請求原因事実)

仮に右(一)が認められないとしても、第一審原告は、昭和六二年五月一三日、第一審被告との間で、昭和六一年一〇月七日に成立した契約に基づく第一審被告の第一審原告に対する残債務金三六万〇九二五円の支払債務をもって、消費貸借の目的とすることを約し、更に、第一審原告は第一審被告に対し、現金一三万九〇七五円を貸し渡して、消費貸借による金一三万九〇七五円と準消費貸借による金三六万〇九二五円との合計金五〇万円を第一審被告が第一審原告に返済する旨の混合契約を締結した。右契約において、第一審原告と第一審被告は、右(一)(1)ないし(3)と同旨の約定をした。

2  第一審被告は、右1(一)又は(二)の契約に基づく昭和六二年五月末日に支払うべき元利金の支払いを遅滞したので、当然に期限の利益を失った。

3  よって、第一審原告は、第一審被告に対し、主位的に1(一)の消費貸借契約による金員返還請求権に基づき、予備的に1(二)の消費貸借及び準消費貸借の混合契約による金員返還請求権に基づき、残債務金四九万九五〇〇円及びこれに対する期限の利益を喪失した日の後で最終弁済日の翌日である昭和六二年九月九日から支払済みに至るまで約定利率のうち利息制限法所定の限度内で年三六パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。

なお、本訴において、第一審原告は、その請求を明確に主位的請求と予備的請求とに区分して請求しておらず、原審判決も右両請求を明確に区別して判示しているわけではないが、第一審原告は、その主張からみて、請求原因1(一)の消費貸借契約に基づく請求が認められることを解除条件として、予備的に、訴訟物の異なる請求原因1(二)の消費貸借及び準消費貸借の混合契約に基づく請求をしていることが明らかであり、原審判決も、実質的にその両請求について判断しているといえる。そして、第一審被告も原審及び当審においてこれに対する防御を尽くしている(後記のように第一審被告は、請求原因1(二)の事実を認めるのみならず、むしろ右事実を積極的に主張して、これに対する抗弁及び再抗弁に対する反論を提出している。)のであるから、当審において、第一審原告の請求を善解して、右のような主位的請求と予備的請求があるものとして扱うことは何ら差し支えないものというべきである。

二  請求原因に対する認否

1(一)  請求原因1(一)の事実は否認する。第一審被告は、昭和六二年五月一三日より以前に、第一審原告から金銭の貸付けを受けたことがあったところ、同日、第一審被告は、第一審原告から、従前の残債務として第一審原告が計算した金三六万〇九二五円と、新たに現金の交付を受けた金一三万九〇七五円との合計金五〇万円を利率日歩一五銭の約定で借り受けたこととし、その返済を約したものであるから、同日第一審被告が第一審原告から交付を受けた現金は金一三万九〇七五円に過ぎない。

(二)  請求原因1(二)の事実は認める。但し、後記抗弁1のように、請求原因1(二)の契約のうち、準消費貸借の原因債務は存在しない。

2  請求原因2は争う。

三  抗弁

1  弁済と過払金の当然充当

(一) 第一審原告と第一審被告間の従前の金銭貸借

第一審被告は、昭和六二年五月一三日以前に、第一審原告から次の経緯で金銭の貸付けを受けた。

(1) 第一審被告は、昭和五九年七月二日、第一審原告から金三〇万円を利率日歩一八銭、元金は毎月金三万円宛、利息は元金とともに経過分をそれぞれ支払う旨の約定で借り受けた。

(2) 第一審被告は、昭和六一年八月一三日、第一審原告から、右(1)の契約に基づく第一審原告の計算による残債務金一五万一八四九円と、新たに現金の交付を受けた金九万八一五一円との合計金二五万円を、利率日歩二〇銭の約定で借り受けたこととし、元金は毎月金二万五〇〇○円宛、利息は元金とともに経過分をそれぞれ支払うとの約定で、その返済を約した。

(3) 第一審被告は、同年一〇月七日、第一審原告から、右(2)の契約に基づく第一審原告の計算による残債務金二五万六〇〇〇円と、新たに現金の交付を受けた金九万四〇〇〇円との合計金三五万円を、利率日歩二〇銭の約定で借り受けたこととし、元金は毎月金三万五〇〇〇円宛、利息は元金とともに経過分をそれぞれ支払うとの約定で、その返済を約した。

(4) そして、請求原因1(二)のように、第一審被告は、昭和六二年五月一三日、第一審原告から、右(3)の契約に基づく第一審原告の計算による残債務金三六万〇九二五円と、新たに現金の交付を受けた金一三万九〇七五円との合計金五〇万円を、利率日歩一五銭の約定で借り受けたこととし、その返済を約したものである。

(二) 弁済

第一審被告は、右(一)(1)ないし(3)及び請求原因1(二)の各契約に基づく債務について、別紙元利金計算書(一)支払金欄記載のとおり弁済した。

(三) 過払金の当然充当

右(二)の弁済について、利息制限法所定の利率により計算し、利息超過部分を残元本に充当すると、その結果は別紙元利金計算書(一)のとおりとなる。即ち、

まず、右(一)(1)の契約に基づく債務についての右弁済の結果、同(2)の契約が締結される前の昭和六一年七月一八日現在で、別紙元利金計算書(一)残元金欄に△印で示したように、金八万六五九六円の過払金が生じている。右過払金については、同年八月一三日に締結された右(2)の契約において新たに現金の交付を受けた借受金九万八一五一円の弁済に当然充当されるべきである。

また、右(一)(2)の契約に基づく債務についての右充当及び右弁済の結果、同(3)の契約が締結される前の同年九月二五日現在で、別紙元利金計算書(一)残元金欄に△印で示したように、金一万〇一六七円の過払金が生じている。右過払金については、同年一〇月七日に締結された右(3)の契約において新たに現金の交付を受けた借受金九万四〇〇〇円の弁済に当然充当されるべきである。

更に、右(一)(3)の契約に基づく債務についての右充当及び右弁済の結果、請求原因1の契約が締結される前の昭和六二年四月一七日現在で、別紙元利金計算書(一)残元金欄に△印で示したように、金五万二五四五円の過払金が生じている。

また、右過払金については、同年五月一三日に締結された請求原因1の契約において新たに現金の交付を受けた借入金の弁済に当然充当されるというべきである。

そうすると、第一審被告が第一審原告に対して支払うべき残元金は、同年九月八日現在で、別紙元利金計算書(一)のとおり金一一七四円に過ぎない。

2  過払金返還請求権による相殺

第一審被告は、右1のように、1(一)(1)の金三〇万円の貸金契約に基づく債務の弁済の結果、昭和六一年七月一八日現在で、第一審原告に対して過払金八万六五九六円の不当利得返還請求権を有している。そうすると、前記抗弁1(三)の過払金の当然弁済充当が認められないとしても、第一審被告は、第一審原告に対し、本訴当審第一回口頭弁論期日(平成元年八月七日)において、右過払金の不当利得返還請求権を自働債権とし、本件において第一審原告が請求している金員支払請求権を受働債権として、対当額において相殺する旨の意思表示をした。

3  準消費貸借の原因債務の不存在

右1(二)の弁済の結果、右1(一)(2)、(3)及び請求原因1(二)の契約は、いずれも、その準消費貸借の部分について、従前の債務が既に消滅していたことになるから、原因債務が存在しない。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1について

(一) 抗弁1(一)の事実のうち、同(1)のように、第一審原告が昭和五九年七月二日第一審原告に金三〇万円を利息日歩一八銭の約定で貸付けた事実は認めるが、その際、遅延損害金について、日歩二〇銭の約定をした。また、第一審原告と第一審被告間で同(2)、(3)の契約を締結した事実は否認する。右(2)、(3)記載のそれぞれの日に、第一審原告は第一審被告に対し、それぞれ各合計金額の現金を現実に貸し渡したものである。即ち、

まず、第一審原告は、昭和六一年八月一三日、第一審被告に、利息日歩一八銭、遅延損害金日歩二〇銭の約定で、金二五万円の現金を貸金として現実に交付した。この時点では、右契約に基づく金二五万円の支払債務と、前記三1(一)(1)の契約に基づく残金一五万一八四九円の支払債務とが併存していた。そして、第一審原告は、同日、その後、第一審被告から同(1)の契約に基づく金一五万一八四九円の支払を受けた。

また、第一審原告は、同年一〇月七日、第一審被告に、利息、遅延損害金とも日歩二〇銭の約定で、金三五万円の現金を貸金として現実に交付した。この時点でも、右契約に基づく金三五万円の支払債務と、同年八月一三日に締結された前記契約に基づく残金二五万六〇〇〇円とが併存していた。そして、第一審原告は、同日、その後、第一審被告から右残金二五万六〇〇〇円の支払を受けた。

そして、第一審原告と第一審被告間の昭和六二年五月一三日の契約も現実に現金五〇万円の交付を伴うものであったことは、請求原因1(一)のとおりである。

(二) 抗弁1(二)の事実のうち、第一審被告が第一審原告に対して、別紙元利金計算書(一)支払金欄のとおり第一審被告の貸金債務の弁済として金員を支払ったことは認める。

(三) 抗弁1(三)は争う。

2  抗弁2の事実(但し、相殺の意思表示を除く)及び抗弁3の事実はいずれも否認する。

五  再抗弁

1  第一審原告は、昭和五九年二月二八日、貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)三条に基づき、大阪府知事の登録(登録番号(〇一)〇二二六〇号)を受け、更に昭和六二年二月二八日、大阪府知事の登録(登録番号(〇二)〇二二六〇)を受けて、肩書住所地において泉商事有限会社の商号で貸金業を営む会社であり、第一審原告と第一審被告間の貸金契約は総て第一審原告の業としてなされたものである。

2  第一審原告は、第一審被告との間で、昭和五九年七月二日(抗弁1(一)(1))、昭和六一年八月一三日(前記四1又は抗弁1(一)(2))、同年一〇月七日(前記四1又は抗弁1(一)(3))及び昭和六二年五月一三日(請求原因1(一)又は(二))のそれぞれの契約をした際、遅滞なく、右1の登録番号及び商号、住所地、その契約内容並びに第一審被告が負担すべき元本及び利息以外の金銭に関する事項等、貸金業法一七条、同法施行規則(以下「規則」という。)一三条に定める事項を記載した契約書面を交付した。

3  第一審被告は、第一審原告との間の契約に基づく債務について、別紙元利金計算書(一)支払金欄記載のとおり弁済したが、このうち別紙元利金計算書(二)利息金(又は損害金)欄記載の金額は、第一審被告が利息又は遅延損害金として任意に弁済したものである。

そして、第一審原告は、右弁済の都度、直ちに、第一審被告に対し、前記1の登録番号、商号及び住所地、当該契約の契約年月日及び貸付金額、並びに受領金額、利息、元金への充当額及び各弁済後の残存債務額等、貸金業法一八条一項、同法施行規則一五条に定める事項を記載した受取証書を交付した。

したがって、右弁済金のうち利息又は遅延損害金として支払われた分は、貸金業法四三条一項により利息又は遅延損害金の弁済として有効であり、第一審原告の第一審被告に対する貸付金元本の残額は、別紙元利金計算書(二)記載のとおり、最終弁済日である昭和六二年九月八日現在で、金四九万九五〇〇円である。

4(主位的請求に関して)

ところで、第一審被告は、昭和六一年八月一三日、同年一〇月七日及び昭和六二年五月一三日の契約は借換であり、第一審原告が第一審被告に貸金業法一七条一項所定の書面を交付していないと主張する。しかし、前記請求原因1(一)及び四1(一)のように、第一審原告が第一審被告に貸付をする時点では、第一審被告の旧債務は新債務と併存して残っていたので、借換ではない。したがって、契約書面に旧債務とその決済とを記載することは事実に反する。

したがって、請求原因1(一)及び四1(一)の各契約において交付された契約書面は、旧債務とその決済の記載がなくとも、貸金業法一七条一項の要件を満たすものというべきであり、第一審被告の第一審原告に対する抗弁1の弁済のうち利息又は遅延損害金の弁済は同法四三条一項の適用を受けるものである。

5(予備的請求に関して)

第一審原告は、前記抗弁1(一)(1)記載の契約に際して、第一審被告に貸金業法一七条一項所定の書面を交付した。

また、第一審原告は、請求原因1(二)の契約に際して、第一審被告に対して、右2記載の契約書面を交付したところ、右書面には旧債務の記載がないが、旧債務の記載は、貸金業法一七条一項所定の事項には該当しないというべきである。同法は、同条項一号ないし七号の記載に加えて大蔵省令で定める事項の記載を要求しているのであって、借換等従前の債務のある場合については、大蔵省銀行局長の通達でその記載をするよう指導しているに過ぎず、通達は法令ではないから、同法一七条一項の他の要件と同一視すべきでない。但し、旧来の債務の清算を借主に周知徹底せしめることは好ましいことであるから、右通達に準じて、計算書を示して納得させるなどの方法をとるべきである。そして、第一審原告は、第一審被告に対して、計算書を示し計算方法等も説明して、旧来の債務の清算を周知徹底しているのであり、これは、契約書面に記載することよりも明確な方法といえるから、貸金業法一七条一項所定の要件を欠くものとはいえず、したがって、第一審被告の第一審原告に対する抗弁1の弁済のうち利息又は遅延損害金の弁済は同法四三条一項の適用を受けるものといえる。

そして、第一審原告と第一審被告との間の、昭和六一年八月一三日の前記契約及び同年一〇月七日の前記契約においても、第一審原告は第一審被告に貸金業法一七条一項所定の書面を交付したので、これらの契約についての第一審被告の弁済のうち利息又は遅延損害金としての弁済についても同法四三条一項の適用を受けるものである。

六  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1の事実は認める。

2  再抗弁2の事実は否認する。即ち、第一審原告と第一審被告間の昭和六一年八月一三日、同年一〇月七日及び昭和六二年五月一三日の各契約は、前記のように、いずれもいわゆる借換契約であるが、その際、第一審原告から第一審被告に交付された書面には、右借換についての旧債務の元本及び利息の記載が欠如している。したがって、第一審原告から第一審被告に対して、右契約の際、貸金業法一七条所定の書面の交付があったことにはならない。また、前記三1(一)(1)の契約も同条所定の書面の交付がない。

3  再抗弁3の事実は否認する。第一審被告の第一審原告に対する抗弁1の弁済は、とりわけ次の点で貸金業法四三条一項の要件を欠いている。即ち、

まず、第一審被告は、第一審原告に対して、抗弁1の弁済について、利息又は遅延損害金として指定して弁済したわけではない。第一審原告と第一審被告との間には、元金・利息の明細を定めた弁済計画があったわけではなく、毎回の返済額もまちまちであるので、利息計算は総て第一審原告が行ない、第一審被告は第一審原告から言われるままの元金・利息をまとめて支払っていたものである。

また、第一審被告が昭和六二年九月八日にした金三万九二〇〇円の弁済についての受取証書は、第一審原告から第一審被告に交付されたのが昭和六三年二月九日以降であるから、弁済後直ちに第一審被告に交付されていない。

更に、第一審原告の第一審被告に対する昭和五九年七月二日の貸付について、契約書も作成されないまま、昭和六一年六月一二日弁済分以降、利息が日歩一八銭から日歩二〇銭に変更されている。

4  再抗弁4、5は争う。

第三  証拠<省略>

理由

一  請求原因1について

1  請求原因1(一)の事実について判断する。

<証拠>を総合すると、第一審被告は、昭和六二年五月一三日、第一審原告に対し、請求原因1(一)(1)ないし(3)記載の約定により、金五〇万円を借り受けたこととしてその返済を約した事実が認められるが、右契約成立に際しての、第一審原告と第一審被告間の現金授受の態様及び右両当事者の法律関係についての認識ないし意識は次のとおりであったと認められる。

即ち、

第一審被告は、同日、貸金業者である第一審原告の店舗を訪れ、金銭の借り入れを申し込んだ。第一審被告は、それ以前にも第一審原告から金銭を借り入れたことがあり、第一審原告の計算によると、同日現在で、第一審被告の債務が金三六万〇九二五円残っていた。そこで、第一審被告は、同日、第一審原告の従業員で貸付け窓口担当の西岡凱子に、第一審原告の計算にかかる第一審被告の残債務と合わせて総額金五〇万円の債務となるように、金銭を借り受けたい旨申し込んだ。そこで、西岡は、右申込みを第一審原告代表者(取締役)の清水睦子に伝え、清水は、第一審被告に対しその申込どおりの貸付けをすることを決め、金庫から現金五〇万円を出して、西岡の手を通じて第一審被告にその全額を交付した。そして、その後すぐに、第一審原告の従業員で弁済受領窓口担当の磯田富子が、右現金五〇万円のうちから、第一審被告の右残債務に相当する現金三六万〇九二五円の支払いを受け、清水は、これをもって第一審被告の従前の債務は総て弁済されたこととした。したがって、第一審被告の手元には、同日第一審原告から借り受けた現金五〇万円のうち、金一三万九〇七五円のみが残るが、第一審被告は第一審原告に対して金五〇万円と約定利息の返済債務を負うことになった。ところで、第一審原告において顧客に金銭を貸付けるかどうかを決定するのは清水であるが、清水は、同日、第一審被告に対して金五〇万円を貸付けることを決定して、現金五〇万円を交付する際、その中から第一審被告の従前の残債務金三六万〇九二五円の返済を受けることを前提として、右貸付けの決定をし、右現金を交付した。また、第一審原告は、個人の一般顧客に保証人なしで金銭を貸付ける場合、貸付けの限度額をほぼ金五〇万円と設定しており、第一審被告についてもほぼ金五〇万円を限度としていた。但し、右限度額は絶対的なものではなく、例えば債務者にボーナスが支給される直前など、返済の目途が特にあるような場合には限度額を超えて貸付けることもあった。第一審原告が、従前の残債務がある債務者に対して、同日から返済義務を負う金額に相当する現金を一旦全額交付するのは、返済義務を負う金額から従前の残債務額を控除した額に相当する現金を交付するのに比べて、借主が現在いくらの返済義務を負っているかということを明確に認識できるからという理由による。以上の事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

そうすると、同日、第一審原告は、第一審被告に現金五〇万円を一旦交付し、その返済契約を締結しているものの、これは、第一審被告の従前の残債務について、その現金の中から弁済を受けることを前提としたもので、実際にも、右交付の後すぐに、その現金の中から、現金で第一審原告の計算による残債務金三六万〇九二五円全額の弁済を受けており、他方、第一審被告も、申込時から残債務を合わせて総額で金五〇万円の返済義務を負うという意識をもっていたものであり、また、第一審原告が第一審被告に対する貸付け限度額を一応五〇万円に設定していることからして、第一審原告は、第一審被告が残債務を弁済することを前提にしなかった場合、これに加えて新たに金五〇万円を貸し渡す可能性は殆どなかったものと推認されるので、以上の事実を総合すると、同日の第一審原告と第一審被告間の契約は、実質的にみて金五〇万円全額について要物性の要件を満たすものとはいえず、金五〇万円の消費貸借契約であるとはいえないから、請求原因1(一)の事実は認められない。

したがって、第一審原告の主位的請求はその余の点について判断するまでもなく理由がない。

2  請求原因1(二)の事実については当事者間に争いがない。なお、請求原因1(二)の契約のうち、準消費貸借の原因債務が原告主張のとおり存在したかどうかは後記二で判断する。

二  抗弁1(一)、(二)(過払金の弁済充当)について

1  抗弁1(一)(当事者間の従前の金銭貸借の経過)の事実について判断するに、<証拠>を総合すると次の事実が認められる。

(一)  第一審原告は、昭和五九年七月二日、第一審被告に対し、金三〇万円を、利息日歩一八銭(平年は年六五・七パーセント閏年は年六五・八八パーセント)、元金は毎月三万円宛一〇回に分割し、利息は元金の支払と同時に経過分を元金に付加して支払い、右金員の支払を一回でも怠ったときは第一審被告は期限の利益を失う旨の約定で貸し渡した。第一審原告と第一審被告間の契約はこのときが初めてであり、第一審原告は、第一審被告に右貸金として金三〇万円の現金を交付した。

なお、第一審原告は、右契約において遅延損害金の利率を日歩二〇銭とした旨主張し、<証拠>によると、昭和六一年六月一二日、七月一八日及び八月一三日の各弁済について第一審原告が第一審被告から日歩二〇銭の割合による利息又は遅延損害金を受領した事実が認められるが、右事実によっても、日歩二〇銭の遅延損害金の約定がなされた事実を認めるには足りず、他に右遅延損害金の約定がなされたことを認めるに足る証拠はなく、却って、<証拠>を総合すると、右契約において遅延損害金の約定はなされなかったものと認められる。

(二)  第一審原告は、昭和六一年八月一三日、第一審被告に対し、金二五万円を貸付けたこととした。これは、右(一)の契約に基づく同日現在の第一審被告の残債務が第一審原告の計算では金一五万一八四九円あったところ、前記一1認定の金銭貸付けと同様の方法で、第一審原告が一旦現金二五万円を第一審被告に交付し、同日その後すぐに、右現金の中から、右残債務相当の現金一五万一八四九円の返還を受けて、右残債務が総て弁済されたこととしたものである。したがって、この契約は、前記一1と同様の理由で、消費貸借ではなく、前記一2(請求原因1(二))の契約と同様に、金一五万一八四九円の準消費貸借と金九万八一五一円の消費貸借契約との混合契約であり、第一審被告が第一審原告に対して右合計金二五万円の債務を負うことを約したものとみるべきである。また、右契約の内容は、利息日歩一八銭(年六五・七パーセント)、遅延損害金の利率年七三パーセント、元金は、同年九月から昭和六二年六月まで毎月一二日限り二万五〇〇〇円宛一〇回に分割し、利息は元金の支払と同時に経過分を元金に付加して支払い、右金員の支払を一回でも怠ったときは第一審被告は期限の利益を失う旨の約定であった。

(三)  第一審原告は、同年一〇月七日、第一審被告に対し、金三五万円を貸付けたこととした。これは、右(二)の契約に基づく同日現在の第一審被告の残債務が第一審原告の計算で金二五万六〇〇〇円あったところ、前記一1認定の金銭貸付けと同様の方法で、第一審原告が一旦現金三五万円を第一審被告に交付し、同日その後すぐに、右現金の中から、右残債務相当の現金二五万六〇〇〇円の返還を受けて、右残債務が総て弁済されたこととしたものである。したがって、この契約も、前記一1と同様の理由で、消費貸借ではなく、前記一2(請求原因1(二))の契約と同様に、金二五万六〇〇〇円の準消費貸借と金九万四〇〇〇円の消費貸借契約との混合契約であり、第一審被告が第一審原告に対して右合計金三五万円の債務を負うことを約したものとみるべきである。また、右契約の内容は、利息及び遅延損害金の利率がいずれも日歩二〇銭(年七三パーセント)、元金は、同年一一月から昭和六二年八月まで毎月六日限り三万五〇〇〇円宛一〇回に分割し、利息は元金の支払と同時に経過分を元金に付加して支払い、右金員の支払を一回でも怠ったときは第一審被告は期限の利益を失う旨の約定であった。

(四)  そして、第一審原告と第一審被告間の前記一2(請求原因1(二))の契約のうち、準消費貸借の部分は、右(三)の契約に基づく、第一審原告の計算による昭和六二年五月一三日現在の第一審被告の残債務金三六万〇九二五円を原因とするものである。

2  抗弁1(二)(弁済)の事実について判断するに、右事実のうち、第一審被告が第一審原告に対して、別紙元利金計算書(一)支払金欄記載のとおり第一審被告の貸金債務の弁済として金員を支払ったことについては当事者間に争いがなく、これに前記認定事実及び弁論の全趣旨を総合すると右金員の支払は、前記1(一)ないし(三)及び一2認定の契約に基づく第一審被告の債務の弁済としてなされたものと認められる。

三  再抗弁(弁済の有効性)について

1  再抗弁1の事実については当事者間に争いがない。

2  再抗弁2、3、5について併せて判断する。

(一)  まず、再抗弁2の事実のうち、前記二1(一)認定にかかる第一審原告と第一審被告間の昭和五九年七月二日の金三〇万円の貸金契約に際して、第一審原告が第一審被告に対して、遅滞なく貸金業法一七条一項所定の契約書面を交付したかどうかについて判断する。この点について、第一審原告代表者は当審における尋問において、右契約に際して、第一審原告は第一審被告に、貸金業法一七条一項所定の借用証書を交付したが、当時は第一審原告は営業用に二枚複写の借用証書用紙を使用していたので、一枚は第一審被告に渡し、控えを第一審原告の手元に置いていたところ、右控えは、右契約に基づく第一審被告の債務が総て弁済されたこととした際破棄したため、現在は残っていない旨の供述をした。そこで、右供述の信用性について検討する。まず、右第一審原告代表者の供述に沿う二枚複写の借用証書用紙として、甲第七号証(但しこれは元金一括返済の場合の借用証書であるから第一審被告との間の契約に用いられたものとは異なると解される。)が証拠として提出されている。また、後記(三)認定のように、第一審原告と第一審被告間の前記二1(二)、(三)認定にかかる契約において、省令第一六条第三項に基づく書面と題する書面が、貸金業法一七条一項所定の書面として第一審原告から第一審被告に交付されている。更に、第一審被告も原審における本人尋問において、前記二1(一)の契約の際、詳しい内容は記憶にないものの書面に数字を書き入れたことはある旨供述している。また、当審における第一審原告代表者尋問の結果によると、第一審原告の代表者清水は、貸金業法が成立した昭和五八年ころ貸金業界の講習を受講し、同法における必要書類の内容について聴講して関係書面を整備したことが認められる。そうすると、以上の事実ないし証拠に加えて、第一審原告代表者の当審における供述態度及び供述内容並びに弁論の全趣旨に照らすと、他に特段の措信すべきでないとする事情の認められない本件においては、第一審原告が右契約の際第一審被告に貸金業法一七条一項所定の書面を交付した旨の第一審原告代表者の供述は信用できるものといえる。したがって、第一審原告は、前記二1(一)の契約の際、第一審被告に対し、原告の登録番号、商号及び住所地、利息、返済方法その他の契約内容等貸金業法一七条一項所定の事項を記載した書面を交付したことが認められる。

(二)  次に、前記二2の弁済のうち、前記二1(一)の契約に基づく債務についての弁済と認められる昭和五九年七月一六日から昭和六一年七月一八日までの間の各弁済について、第一審被告が別紙元利金計算書(二)利息金(又は損害金)欄記載の金銭を利息又は遅延損害金として任意に弁済したかどうか、また、その際、第一審原告が第一審被告に貸金業法一八条所定の書面を交付したかどうかについて判断する。前記認定事実に加えて、<証拠>を総合すると次の事実が認められる。即ち、

前記二1(一)の契約の利息は、日歩一八銭(平年は年六五・七パーセント、閏年は年六五・八八パーセント)で、元金の支払と同時に経過分を元金に付加して支払う旨の約定であったところ、昭和五九年七月一六日から昭和六一年四月二六日までは、第一審原告が前記弁済をする際、第一審被告が経過分の利息を、日歩一八銭の割合で計算して(その結果は別紙元利金計算書(二)利息(又は損害金)欄記載のとおり)、その弁済に充当し、その余の支払金を元金の弁済に当てた。また、同年六月一二日と七月一八日の弁済については、利息として日歩二〇銭(年七三パーセント)の割合で充当されている。そして、右期間中の弁済全部について、第一審原告は、その都度直ちに、第一審被告に、第一審原告の登録番号、商号及び住所地、前記二1(一)の契約年月日及び貸付金額並びに各弁済時の受領金額、その利息、元金の充当額及び各弁済後の残存債務額、弁済を受けたことを示す文字を記載した領収書を交付した。第一審被告は、弁済の際、利息と元金にそれぞれ充当する額を自ら指定していたわけではなく、第一審原告の計算に従って右充当をしていたが、右領収書の交付を受けて、当該弁済が利息と元金にいくらずつ充当されたかは認識しており、特に異議を述べることはしなかった。以上の事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。なお、前記<証拠>(計算書控)の中には、第一審被告が領収書を受領したときにする署名があるものとないものとがあるが、第一審原告代表者は原審(第二回)及び当審における尋問で、第一審被告に領収書を右期間の全部の弁済の都度直ちに交付した旨供述しており、第一審被告も原審における本人尋問で右期間の全部の弁済の都度領収書を受領したことは認めているので、全部の弁済について、前記内容の領収書が交付されたと認めて差し支えない。

そうすると、右期間の弁済のうち、昭和五九年七月一六日から昭和六一年四月二六日までの弁済は、第一審原告の計算で利息と元本の充当がなされたものの、二一回にわたり当該契約(前記二1(一)の契約)所定の利率で利息の充当がなされており、右契約に際しては、前記(一)のように第一審原告から第一審被告に対して、貸金業法一七条所定の借用証書が交付されており、そこには利息の約定も記載されていたこと、及び第一審原告から第一審被告に、右二一回にわたる弁済の都度、直ちに前記領収書が交付され、第一審被告はこれに対して異議を述べなかったことに照らすと、第一審被告は、右弁済に際して、別紙元利金計算書(二)利息金(又は損害金)欄記載の金銭を利息として任意に弁済したものと認められる。そして、前記認定事実によると、右弁済の都度、直ちに、貸金業法一八条一項所定の書面が第一審原告から第一審被告に交付されたものといえる。したがって、右利息の弁済については、貸金業法四三条一項の適用が認められる。

これに対して、昭和六一年六月一二日及び七月一八日の弁済については、利息として日歩二〇銭の割合での充当がなされているが、前記二1(一)の契約に際しては遅延損害金の約定はなされておらず、その後遅延損害金の約定がなされたこと及びその旨の書面が第一審原告から第一審被告に交付されたことを認めるに足りる証拠はなく、第一審原告代表者尋問の結果によっても右弁済について利息を日歩二〇銭とした根拠は必ずしも明らかでないので、右利息充当は、第一審原告の恣意的なものといわざるを得ず、第一審被告が利息として任意に支払ったものとはいえない。したがって、右利息充当については、貸金業法四三条一項の適用は認められない。

以上によると、前記二1(一)の契約に基づく債務のうち利息についての第一審被告の第一審原告に対する弁済は、昭和五九年七月一六日から昭和六一年四月二六日までは約定のとおり日歩一八銭(平年は年六五・七パーセント、閏年は年六五・八八パーセント)の割合による利息の弁済として有効であるが、同年六月一二日及び七月一八日の弁済については、利息制限法所定の範囲内で利息に充当され、その余は元金の弁済に充当される。そして、前記認定事実に加えて、前掲各証拠に弁論の全趣旨を総合すると、右両弁済の日には、第一審被告は期限の利益を失なっていたものと認められる。そうすると、別紙元利金計算書(三)のとおり、同日現在で、第一審被告が前記二1(一)の契約に基づき第一審原告に対して負う債務額は、金一三万一一五九円である。

ところで、前記二1(二)認定にかかる第一審原告と第一審被告間の昭和六一年八月一三日の契約は、第一審原告の計算にかかる一五万一八四九円を準消費貸借の原因債務としてなされたものであるが、前記認定によると、このうち右一三万一一五九円及びこれに対する同年七月一九日から八月一二日までの利息制限法所定利率による遅延損害金三二三四円の合計金一三万四三九三円を超える部分は債務が存在しなかったものと認められる。

したがって、前記二1(二)認定にかかる契約は、右一三万四三九三円と現実に現金が交付された金九万八一五一円の合計金二三万二五四四円の返済約束部分について有効に成立したものと認められる。

(三)  更に、第一審原告と第一審被告間の前記二1(二)、(三)及び一2認定にかかる契約について、その際、第一審原告が第一審被告に対して、貸金業法一七条一項所定の書面を交付したかどうかについて判断する。

まず、前記認定のように、右各契約はいずれも準消費貸借と消費貸借の混合契約(いわゆる借換契約)である。他方、<証拠>を総合すると、第一審原告は、右各契約に際して、第一審被告に対して、いずれも、第一審原告の登録番号、商号及び住所地に加えて、当該契約内容として返済方式、貸付け利率、各回の支払金額、返済期間及び回数、返済方法、賠償額の予定、期限の利益喪失の条件等を記載した書面を交付したが、右書面には、従前の債務があることないし右借換の事実は記載されていなかったことが認められ、この認定に反する証拠はない。

そこで、いわゆる借換契約において、右借換の事実が記載されていない書面を交付した場合にも、貸金業法四三条一項の適用の要件としての同法一七条一項所定の書面の交付があったといえるかどうかが問題となるが、この点については、借換の事実が記載されていない書面の交付では、同法一七条一項所定の書面の交付があったとは認められないと解するのが相当である。即ち、

まず、貸金業法一七条及びこれを受けた規則一三条が、契約内容を明らかにする書面の交付を要求しているのは、契約締結時に契約内容を明確にしてそれを書面に記載し、これを債務者に交付することによって、債務者が、その契約内容、とりわけ自己の債務の内容を正確に認識できるようにして、債務者を保護し、また、貸金額や弁済の充当関係を明らかにして後日の紛争の発生を防止するためであると解される。更に、同法四三条一項は、右書面が交付されたことを要件として、利息制限法の例外としてみなし弁済を定めているのであるから、その適用の要件としての契約書面の内容については、厳格に解釈されなければならない。そして、いわゆる借換契約がなされた場合において、これによって発生する債務のうち準消費貸借契約に基づく部分の原因債務の金額及びその発生原因事実は、本件においても明らかなように、特に弁済の充当計算に関して問題となり、契約時において債務者の負担する債務の額に密接に関連する重要な事項であるといえる。また、借換契約において現実に交付された金額(消費貸借契約に基づく部分)も、債務者を保護し、後日の紛争を防止するためには、契約書面に明確に記載されなければならないものといえる。そして、昭和五八年九月三〇日付大蔵省銀行局長通達「貸金業者の業務運営に関する基本事項について」第二の四(2)ニにも、借換契約の場合、契約書面に従前の貸付契約を特定するに足る事項を記載すべきこととしており、右通達は、前記の理由に鑑みると、貸金業法一七条一項、規則一三条の解釈、運用として妥当性を有するものといえる。

この点について、第一審原告は、計算書を示し計算方法を説明するなどして、旧債務の清算を債務者に周知徹底していると主張するが、貸金業法一七条一項の趣旨からして、契約の内容は、契約書面で正確かつ具体的に明らかにされるべきであるし、また、計算書記載の弁済が現金でなされたのか借換の方法でなされたのかが明らかにならないことなどから、右計算書と借換契約との関連性について後日紛争を生じる可能性もあるから、第一審原告の右主張は、採用できないものといわなければならない。なお、<証拠>によると、第一審原告も、借換契約の場合に、その営業用の借用証書用紙に従前の貸付けの債務の内容を記載することとしていたところ、本件では、借換であるという明確な意識をもっていなかったため、その記載をしなかったものと認められるが、前記認定のように、右契約も実質的にみて借換契約といえるのであるから、第一審原告は、右記載をしなければならなかったものといえる。

(四)  以上の理由により、前記二1(二)、(三)及び一2の各契約においては、貸金業法四三条一項の要件との関係で、第一審原告から第一審被告に対して同法一七条一項所定の書面が交付されたものとはいえないから、再抗弁3のその余の点について判断するまでもなく、右各契約についての利息の弁済は、同法四三条一項の適用を受けないものといわなければならない。

四  したがって、第一審被告が前記二1(二)、(三)及び一2の各契約についてなした前記二2の弁済は、利息又は遅延損害金の充当額について、利息制限法所定の利率で計算すべきである。

そして、前記認定事実に加えて、<証拠>を総合すると、第一審被告は、前記二1(二)の契約については昭和六一年九月一二日の経過により、前記二1(三)の契約については同年一一月六日の経過により、また前記一2の契約については昭和六二年五月三一日の経過により、それぞれ期限の利益を失い、履行遅滞におちいったことが認められる。なお、借換契約における利息又は遅延損害金の計算において、基準となる元本額は、消費貸借の部分と準消費貸借の部分とを合わせた合計額と解するのが相当である。

以上の認定事実により、第一審被告の第一審原告に対する弁済を利息又は遅延損害金及び元本に充当して計算すると、別紙元利金計算書(三)のとおりとなる。

そうすると、第一審被告の第一審原告に対する前記弁済によっては、いかなる時点においても過払金が生じているとはいえないから、抗弁1(三)(過払金の当然充当)及び抗弁2(過払金返還請求権による相殺)は、いずれもその余の点について判断するまでもなく認められない。

更に、前記認定事実に右計算の結果を総合すると、前記二1(二)の契約は、第一審被告が第一審原告に対して、金一三万四三九三円の準消費貸借と金九万八一五一円の消費貸借に基づく合計金二三万二五四四円の金員を返還することを約した契約であり、また、前記二1(三)の契約は、第一審被告が第一審原告に対して、金二一万九四三五円の準消費貸借と金九万四〇〇〇円の消費貸借に基づく合計金三一万三四三五円の金員を返還することを約した契約であり、更に、請求原因1(二)の契約は、第一審被告が第一審原告に対して、金二二万六七八〇円の準消費貸借と金一三万九〇七五円の消費貸借に基づく合計金三六万五八五五円の金員を返還することを約した契約であることが認められる。即ち、抗弁3(準消費貸借の原因債務の不存在)の事実がその一部について認められる。

そして、以上によると、最終弁済日の昭和六二年九月八日現在で、第一審原告は第一審被告に対して、金三一万四六一八円の残元金返還請求権を有するものと認められる。

五  結論

以上の次第で、第一審原告の第一審被告に対する主位的請求は理由がないからこれを棄却し、予備的請求は金三一万四六一八円及びこれに対する期限の利益を喪失した日の後で前記最終弁済日の翌日である昭和六二年九月九日から支払済みに至るまで約定以内で利息制限法所定の年三六パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の予備的請求は理由がないからこれを棄却するのが相当である。

ところで、原判決は、主位的請求と予備的請求とを明確に区分していないが、その趣旨は、主位的請求を棄却し、予備的請求を金一二万五六六二円及びこれに対する昭和六二年九月九日から支払済みに至るまで年三六パーセントの割合による金員の支払を求める限度で認容し、その余を棄却したものと解されるところ、第一審原告の控訴は主位的請求、続いて予備的請求の各全部認容を求めるもので、第一審被告の控訴は主位的請求についての原判決の判断については不服がなく、予備的請求の全部棄却を求めるものとみることができる。

そうすると、当審においては、第一審原告の本件控訴のうち、主位的請求に関する部分は理由がないからこれを棄却するとともに、なお、原審において明確に判示されていない主位的請求を棄却する旨の判決をし、また、予備的請求に関する第一審原告の控訴に基づき原判決を変更して右のとおり第一審原告の予備的請求を一部認容、一部棄却し、他方、第一審被告の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について九六条、八九条、九二条を、仮執行の宣言について民訴法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林一好 裁判官 田中澄夫 裁判官 光本正俊)

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